桜の下で ~幕末純愛~

車は近くの個人院を通り越し、総合病院に着いた。

…大げさだってば。

「普通の内科でいいよ。混んでるだけで待つの大変じゃない ケホッ」

マスク越しにくぐもった声の桜夜が言う。

「いんだよ。行くぞ」

哲…変なカンが働いてんのかな…。

長い時間待つとやっと桜夜の名前が呼ばれ、診察室へ向かう桜夜。

すると哲也もついて来ようとした。

おいおい…。

「何してんの?ついて来ないでよ。見る気?」

軽く哲也を睨む。

「ちゃんと言うんだろうな」

「ここまで来て嘘ついてどうすんのよ。待ってて」

桜夜は一人で診察室に入っていった。

長引く咳の為、レントゲンを撮り再び呼ばれる。

暫くして出てきた桜夜の顔は何故か嬉しそうに見えて哲也は戸惑った。

「咳がしつこいだけだってさ コホ」

「本当か?」

「哲も咳並みにしつこいね」

桜夜が笑う。

―何でもなかったから嬉しそうに見えたのか?―

腑に落ちない表情の哲也を他所に桜夜は会計を済ませ、足早に車へと戻った。

その晩、窓から月を眺める桜夜。

総司…もう待ってられないみたい。ねぇ、もういいでしょう?

哲、ごめんね。嘘ついて…。

病院で告げられた病名は【肺結核】

入院する様に言われたが、無理矢理断り、逃げるようにして帰ってきた。

翌日から桜夜は部屋に籠る様になった。

皆にうつす訳にはいかないから…。

病状は急速に悪化していった。

そして桜が満開になった頃、桜夜は哲也を公園に呼び出した。

何度訪ねても会ってくれなかった桜夜の突然の呼び出しに哲也は不安を隠せなかった。

「遅い ゴホッ よ」

桜夜はブランコに座っていた。

久々に見た桜夜は痩せ細っており、哲也は驚いてつい目を逸らす。

「いつかの返事 ゴホ ゴホッ するね ゴホッ」

「もう、いい。…何で嘘ついたんだよ」

総司のところに行きたいから…何て言えないでしょう?

「あれ、頂戴。ゴホッ カバンについてた ゴホ ゴホッ やつ」

私の匂袋。

哲也は仕方なさそうに車のキーに付いていた匂袋を桜夜に渡した。

桜夜はそれを受け取ると途中、コンビニで買ってきたライターを取り出した。