桜の下で ~幕末純愛~

桜夜の咳は一週間経っても止まらなかった。

美沙子も哲也も心配をして病院に連れていこうとしたが、咳だけだと桜夜は拒んでいた。

変な風邪ひいちゃったのかな…。

そんな呑気な事を考えていた。

しかしその咳が更に二週間続いた時、桜夜の頭に一つの病名が浮かぶ。

まさか………?

その後も止まる気配のない咳に桜夜の考えは確信に変わる。

桜夜は冬空の月を眺めた。

逢いたくて…もう限界だったみたいよ……総司…。

翌朝、桜夜が眠っていると勢いよくドアが開き、怒った様な表情の哲也が現れた。

「桜夜っ、起きろっ!」

「ん…?哲? コホッ」

哲也は掛布団をガバッと剥ぐ。

「さむっ」

ベッドの上で小さく丸まる桜夜。

「今日こそ病院連れてくからな。冗談じゃねぇぞ。もう2ヶ月にもなるじゃないか」

2ヶ月?もうそんなに経ってた?

桜夜は持ち上げられた掛布団を奪い返すとそれを頭から被った。

「おいっ!聞いてんだろ」

…聞こえてるわよ。

「…お前、何考えてんだ?」

総司の事。

「死ぬ気かよ…」

大げさだなぁ。何の病気かも知らないくせに。けど…そうだよ。

「させねぇ…そんな事、絶対許さねぇからな」

哲…怒ってるね。

哲也は再び掛布団を剥ぎ取る。

渋々桜夜が起き上がろうと哲也を見ると、その目が潤んでいた。

…鬼の副長が涙なんて見せないでよ。

「着替えるから コホッ 出て」

哲也を追い出すと桜夜はベッドに座りため息をつく。

病院に行けば病名がはっきりする…でも…治療されちゃうよね…。

この時代では治せてしまうから。

桜夜は立ち上がり机の引き出しから櫛と半分に切られた髪紐を出す。

病院、行かなかったら怒る?

そうね、きっと凄く怒るだろうね…。

桜夜はポーチに櫛と髪紐を入れ、バックにしまう。

着替えを済ませるとリビングで待っているであろう哲也の元へ向かった。

「お待たせ」

桜夜の姿を見るや哲也は立ち上がり玄関へ向かう。

美沙子は不安そうな顔をし、桜夜は少し困った表情を見せた。

家の前には哲也の車が停められていた。

そっか…。哲、免許とったんだっけ。

病院までの道程を二人は話すことなく、桜夜は窓に流れる街並みを眺めていた。