桜の下で ~幕末純愛~

「おばちゃん…言わないでくれよ」

いつの間にかリビングに入っていた哲也がばつの悪そうな顔をした。

「哲、ありがとう」

桜夜が頭を下げる。

「お前のためじゃねぇよ」

哲也が照れ臭そうに顔を背けた。

「何か食べない?お腹空いちゃったわ」

そんな二人を見て美沙子が笑いながら言った。

そう言えばずっと何も食べてないや…。

悲しくてもお腹って空くんだね。

今って八月だよね?夏休みじゃない?哲、昨日は何で制服だったの?

「哲、昨日制服だったのは何で?夏休みじゃないの?」

「補習だ、補習」

…頭わるっ。私もひじぃにはバカ扱いされてたけど…。

お母さん、仕事は?休んだの?そっか…。

暫くすると三人分の食事が運ばれてきた。

テーブルに和食が並ぶ。

また気を使って…。もういいのに。

でもやっぱりこっちの和食の方が豪華だね。

「お母さん、そんなに気を使ってくれなくてもいいよ…。普通でいいのに」

「和食に慣れた体にいきなりは無理だと思ったのよ」

そんなやり取りを見て哲也が口を挟む。

「いんじゃねぇ?たまにはよ」

たまには…か…。

どこかぎこちなくも食事が進んでいく。

「桜夜。学校、どうする?」

学校か…二年生になる時に私はタイムスリップしたんだね。

「…行くよ。私ってどうなってるの?」

「喘息で休学中。ちなみに俺と同じクラス」

喘息って…それでいいの?しかも哲と同じクラス?

はぁ~、休学のままでいいかも…。

「二学期から行って平気?もっと落ち着いてからでもいいのよ」

「ううん。平気。行けるよ」

平気じゃなくても行かなきゃいけないもの…。

「そう。じゃ、休み明けに行ける様に手続きしておくわね」

そして桜夜は笑顔を取り戻せないまま、夏休みは終わりを告げた。

復学前夜、桜夜は窓を明け月を眺めていた。

…綺麗じゃないね。全然綺麗にみえないよ、総司…。

私の気持ちに関係なく時間は進んでいくのね…。

窓を開けたままベッドに入る。

ぼんやりと月を眺めたままいつの間にか眠りに落ちていた。