「嫌だって言ってるじゃない!」

桜夜が泣き叫ぶ。

「…手の……かかる子で…すね…。貴女が……天…寿を…全うし…たら……迎えに…行って…あげます……か…ら。……いい…子に…していて……下さ…い」


―愛してます―

沖田が話し終えると桜夜の頬に触れていた手がパタリと落ちる。

「そう…じ……?」

止めどなく溢れる涙が青白い沖田の顔に降り注ぐ。

すると沖田の胸から桜色の光が一粒浮き上がると、桜夜の胸にスッと入っていった。

その光が眩しく思えて桜夜は目を閉じる。

桜夜の体を柔らかい光が包むと、幕末という時代を駆け抜けた四年半が走馬灯の様に桜夜の瞼の裏に写し出された。

幕末にタイムスリップをした日。

土方の拳骨と優しい近藤の言葉。

ナミとの出会い。

壬生寺と子供達。

永倉・原田・藤堂の呑みに付き合わされた日々。

背中を斬られ土方に助けられた日。

土方の胸で涙を流した日。

誕生日に皆で呑み明かし笑い合った日。

池田屋事件と栄太郎の死。

沖田に突き放された日々。

土方に抱き締められ暖かかった腕の中。

沖田と想いが通じ合った日。

山南の最期。

連れ去られ、沖田に助けられた安堵感。

沖田からの櫛と桜夜の全てを捧げた夜。

油小路事件と藤堂の死。

大阪での日々。

山崎の死。

江戸で沖田と静かに暮らした日々。

そして最後に写し出されたのは優しく微笑む沖田の顔。

全てを閉じられた瞼の裏で見終えると、桜夜の身は静かに消えていった。

桜夜の消えた後には幸せそうな顔の沖田と竹刀から切れて落ちたミサンガが残された。