桜の下で ~幕末純愛~

「ほら……早…く」

桜夜は笑いながら急かす沖田の頭を膝に乗せた。

「どうした…の?」

自然と声が震え出す。

「桜…夜は……後悔して…いません…か…?私と…生きて…来た時……を」

今日なの?待ってよ。心の準備が出来てないよ。

途端に桜夜の両目から次々と涙が溢れ出す。

「…泣か……ないで。…答えて……くれな…くては…」

沖田の指が桜夜の涙を拭う。

「してないよ。これからだって…後悔なんてしない」

「私は……一つだけ…あるの…です」

桜夜の頬に触れたまま沖田は言葉を続ける。

「貴女と…夫婦になって……おけ…ばよかった。…歴史…などに気……を取られて…ばかり…いない…で…」

夫婦?結婚しておけば?

「そうだね。でも、結婚なんかしなくても愛してるよ?」

「分かって……ます」

けど…それが総司の後悔なら…。

桜夜は自分の髪を結っていた紐をほどくと半分に切った。

そして片方を沖田の薬指に結び、もう片方を自らの薬指に結んだ。

「今すぐ結婚しよう。ほら、指輪もあるよ」

そう言って桜夜は沖田に口付けた。

「これで晴れて夫婦になりました。ねっ」

ポロポロと泣きながらも笑顔をつくる桜夜。

沖田は自分の左手を見て嬉しそうに笑った。

「ありが…と…う」

「後悔はなくなった?」

「ええ…。さて…後は貴…女を……未来に帰す…だけ……です」

未来に帰す?

「…タイム…スリップした……理由を…考え…ていました。…よう…やく答えが……出たのです」

何を言ってるの?私が総司の居ない時代に?無理に決まってるじゃない。

「私…は桜夜、……貴女の腕…の中で…死に……たかった…のです。…桜夜を……迎えに…行った…の…ですよ」

桜夜は沖田の言葉にただ首を振った。

「私…の…我儘で……独り占め…し過ぎ…て…しまいま…した。…返して…あげ……ないと…怒られてしま…います…から…ね」

―土方さんに…―

「嫌っ。総司の居ない世界なんて。だったら私も一緒に逝く。二人の人生って言ったじゃない」

「困…らせ……ないで?桜夜…には…幸せで……いて欲し…い…から。…さぁ……時間が……来ました…よ」