桜の下で ~幕末純愛~

「戦が終わったらお前等二人を迎えに来る。生きて待ってろ」

二人って…。今、言ったじゃない五月って…。

「土方さん…だってもう総司は…」

「俺がそうすると言ってんだ。文句あんのか?」

文句とかって問題じゃなくて…。

「どうしてそこまで…土方さんがそんなにしてくれる義理はないでしょう?」

「俺が認めた男と、惚れた女だ。義理やらで片付くかよ」

認めた男…そっか。総司、幸せだね。

………ん?惚れた女??

「土方さん?い…今、何て…?」

「あ゛?一度しか言わねぇと言っただろうが」

二度、言ってくれ~。

「おい。まだ持ってんのか?」

「はい?」

「匂袋だよ」

ああ、匂袋か。

「はい。ここにあります」

桜夜は胸元から色褪せた匂袋を取り出す。

土方はスッと桜夜の手から匂袋を取った。

「二人で待ってられたら返してやるよ。いい子にしてろよ」

そう言うと踵を返し去って行った。

ひじぃ…。待ってろって言うの?

……ひじぃだって帰って来ないじゃない。

史実通りにこの先も進んでいくなら…生き残る人なんて僅かしかいない…。

何度歴史が変わって欲しいと願っても、あがいても変わらなかったじゃない。

…それでもまた願わずにはいられなくなったよ、ひじぃ。

ここで待ってるから…。総司と二人で待ってるから。

桜夜は土方が見えなくなるまでその姿を見送った。

家に入った桜夜は沖田の脇に座る。

「戦が終わるまで二人で待ってろって」

沖田の手を取り笑いかける。

「また ゴホ ゴホッ そんな ゴホ 無茶を…」

「でも、総司が待っててあげないと私、土方さんに約束が違うって切腹させられちゃうよ」

「有り得ますね ゴホッ」

一つ、生きる目的が出来たね。

「さ、それじゃあ、お昼にしよう。ちょっとでも食べようね。私が切腹させられない様に」

桜夜はクスッと笑い、台所へ向かった。

そして十二日、土方は旧幕府軍へ加わり、再び戦へとその身を投じた。