十二月も終わりを目前にした日。

桜夜は嫌な話を耳にした。

江戸で薩摩藩により江戸城への火付けや市中強奪が相次ぎ、江戸の町が大混乱だという。

ナミさん…。江戸の息子さんのところに行くって言ってた。

ナミさんは今どうしてるんだろう。

文しか手段のない時代…どうしようもないけど、もどかしい…。

もうじき来る新年を祝うどころではなかった。

江戸の事件を皮切りに武力衝突へと一気に加速していった。

そして年が明ける。

―慶応四年・明治元年―

一月二日に旧幕府軍が出陣した。

それに伴い新撰組も出陣となる。

桜夜は土方に呼ばれた。

「稲葉、近藤さんと総司を連れて大阪城に行ってくれ」

「え?大阪城ですか?」

戦が始まったから?必要だって言ってたじゃない。

「ああ。お前には戦での負傷者を看てほしいと思っていたがな、近藤さんの傷が酷すぎる。ここに置いとく訳にもいかねぇんだ。近藤さんと総司を安心して任せられるのはお前しかいない」

話が違うって文句は言えないよね、そういう言い方されちゃうと。

何か言いくるめられた感がある様な、ない様な…。

「分かりました。土方さんも戦が終わったら大阪城に来てくれるんですよね?」

鳥羽伏見の戦いか…。新撰組は敗戦……。

武器が違いすぎる。刀の時代は終わってるから…。

顔に出しちゃいけない。ひじぃ相手じゃ確実にバレる。

「ああ。それまで大人しく待ってろ」

「はい」

桜夜は大阪城へと向かった。

三日、旧幕府軍は鳥羽街道と伏見街道から京都へと進軍。

夕刻に薩摩軍が発砲し鳥羽街道での戦闘が開始された。

しかし十分な準備の前に発砲された旧幕府軍は大した反撃が出来ず、下鳥羽へと撤退していく。

一方、新撰組も鳥羽の開戦に連呼して伏見で開戦。

しかし相手は鉄砲や大砲を抱えた薩摩軍。

刀が大砲に敵う訳がない。

伏見奉行所の建物も炎上し淀方面への撤退を余儀なくされた。

四日には鳥羽口の戦い。

五日に淀千両松の戦い。

六日には橋本の戦い。

これらをも相次いで敗戦。

ついには大阪までの撤退を決めざるを得なかった。

この戦いで多くの死傷者を出した上、六番組組長である井上源三郎を失った。

そして負傷者の中には山崎の姿もあった。

倒幕への動きは加速の一途を辿っていく。