桜夜が目を覚ました時にはもう昼をとっくに過ぎていた。

桜夜の脇には沖田が座っていた。

「おはよう。ゴホッ」

総司?私は…部屋?

「起きてて…いいの?」

「平気ですよ。今日は調子がいい様です ゴホ ゴホッ」

咳してるのに…。

「まだ眠っていても ゴホ いいですよ。此処にいますから」

沖田が桜夜の手を握る。

握られた手に血の感触が残っている気がして、とっくに枯れ果てたと思っていた涙が再び溢れ出す。

桜夜は沖田の手を解くと布団を被り涙を隠した。

「独りで ケホ 泣かないで下さい」

「もう泣かないって決めたの」

布団の中で身を捩り、沖田に背を向けた。

「桜夜…死に馴れて泣けなくなるより ゴホッ 涙は流せた方がいい」

沖田が布団の上から規則正しく桜夜の肩先をトントントン…とする。

「好きなだけ泣きなさい」

暫くすると布団の中から小さく声がする。

「約束したの…またデートしようねって……あれからまだ一回も出掛けてないのに」

「ゴホ ゴホッ そうですか…では平助の眠る場所が ゴホッ 決まったら、デートしたらいいですよ」

沖田はトントンとする手を休めず、優しい声で桜夜に話す。

布団から少しだけ顔を覗かせる桜夜。

「ありがと」

ポツリと呟くとまた布団を被った。

夕方になってやっと桜夜が起き上がる。

「頭、痛い」

「それだけ泣けば…仕方無いでしょう ゴホッ 何か食べますか? ゴホ ゴホッ 持ってきますよ」

病人に気を使われてる…。

「ううん…総司は?」

「いいえ」

相変わらず食欲がないんだね…。

「なら…居てくれる?」

桜夜が沖田の胸に顔を埋めた。

「ええ。いつまででも」

沖田がそれに答える様に腕を回す。

大切な人を失うのはもう嫌…。

栄太郎…平助くん……総司…。

「無理にとは言いません。 ゴホッ しかし桜夜が元気にならないと平助も報われませんよ」

髪を撫でながら桜夜に言う沖田。

「はい」

桜夜は静かに頷いた。