どれだけ時間が経とうとも、桜夜は待ち続けていた。

土方も何も言わず桜夜の横に立ったまま。

すると暗闇からうっすらと動く何かが見えてくる。

帰ってきた?

桜夜が目を凝らす。

三人?それとも……。

何かが門まで来ると桜夜は崩れ落ちた。

永倉の背には青白い顔の藤堂。

聞かずとも分かる生気のない顔。

「ごめんな」

原田が呟く。

永倉は藤堂に桜夜の顔を見せる様にその前に屈んだ。

「おい、平助。桜夜ちゃん、待っててくれたぞ」

平静を装っていても赤い目が涙を語っていた。

桜夜は藤堂に手を伸ばす。

永倉がそっと桜夜の膝に藤堂を下ろした。

まだ冷たくなりきっていない藤堂の体。

藤堂の頬を擦りながら桜夜は笑顔を作る。

「お帰りなさい」

ポタポタと藤堂の顔に桜夜の涙が降り注ぐ。

桜夜はいつまでも藤堂を抱き締めたまま動かない。

土方も永倉も原田も…そこから思わず目を逸らした。

「新八」

土方が長い沈黙を破る。

永倉は藤堂を運ぼうと手を延ばす。

桜夜はギュッと抱き締めた腕に力を入れた。

「桜夜ちゃん…寝かせてやろう」

それでも桜夜は首を振り離さない。

「稲葉、終いだ」

土方が桜夜の腕を藤堂から引き剥がす。

永倉は藤堂を抱え原田と共に屯所内へ消えていった。

桜夜は藤堂の血がついた手を見つめる。

「あ…あぁ……」

カタカタと震え出す指先。

土方は桜夜の前に屈み、その手を包み込んだ。

「もういい…もういいんだ」

渇きを知らない涙が後から後から溢れ落ちる。

土方は桜夜を引き寄せ、その涙を受け止めた。

月がだいぶ西へ傾いた頃、泣きつかれた桜夜はそのまま眠ってしまった。

土方は桜夜を抱きかかえると部屋へと運ぶ。

「総司、起きてるか」

返事を待たずとも部屋に響く咳で起きている事は分かった。

襖を開け、部屋に入ると沖田の脇の布団に桜夜を下ろす。

「水を汲んでくる」

そのまま土方は井戸へ向かう。

沖田は血にまみれた桜夜の手をそっと握った。