桜の下で ~幕末純愛~

団子を買い屯所へ戻る道中、土方はまだ桜夜の手を握ったまま黙って歩く。

もう勝手に行かないから…離してほしいなぁ。何か恥ずかしいよ。

何で聞かないんだろう…。

桜夜がピタッと止まる。

「何だ?」

「どうして聞かないんですか?」

繋いでいた手を土方が離した。

「お前に切腹させられたんじゃ堪らねぇからな」

また言ってる…。

「守りたいんです…総司を失うのに…もう誰も失いたくないんです。たかが私が何も出来ないかもしれない。けど何かしたいと思うと体が勝手に動いてしまって…」

桜夜は俯いた。

「たかがじゃねぇだろ。お前はよくやってる」

はい?ひじぃが誉めた?

桜夜が目を丸くした。

「意外か?あまり馬鹿にすんなよ。見てるところはちゃんと見てるさ」

バカにされてんのは私の方なんだけど…意外だよ。

「お前、平隊士まで全員の名、覚えてるだろ。“たかが”女中があの人数を覚えられるもんじゃねぇ。始めは音を上げると思ってたがな、仕事もしっかりこなしてるじゃねぇか。文句の一つも言わねぇで」

そんなに誉められても…何も出ないよ?

「皆、お前の煎れる茶は旨いと言ってるぞ。巡察から帰ると笑って出迎えてくれるのが嬉しいんだと」

「あ、あのっ…もういいです……調子狂います…」

土方はフッと笑うと桜夜の頭にポンと手を置いた。

「お前は屯所で笑ってりゃいいんだ。皆、其処に帰って来たくなる。お前が皆を其処に戻すんだ。十分に守ってるじゃねぇか」

ひじぃ…泣かせないでよ。

「土方さんはスーパースターですね…」

「何だそりゃ」

「凄いって事です」

土方が吹き出す。

「お前に言われたかねぇよ。早く戻らねぇと総司が待ってんだろ。行くぞ」

屯所に戻ると沖田が縁側に座っていた。

「本当に調子がいいんだな」

桜夜と土方が現れる。

「土方さん…まさか土方さんが団子を買いに? ゴホッ」

「ああ、成り行きでな。しかしこいつ…今度からお前と紐で縛り付けとけ。危なっかしくて見てられねぇ」

縛り付けろって…犬じゃないんだから…。

「新撰組副長を引き連れて団子を買いになんて ゴホッ 桜夜じゃなきゃ出来ないでしょうね ゴホ ゴホッ」

沖田が楽しそうに笑った。