桜の下で ~幕末純愛~

沖田の乾いた咳が部屋に響く。

「起きてたんだ。気分はどう?」

桜夜は布団の脇に座った。

「ダルさは大分抜けてきましたよ」

起き上がろうとする沖田を止める。

「寝てなきゃダメだってば。いつも治りかけで動こうとするから治りきらないんじゃない」

「寝ていたって治りませんよ」

沖田がクスリと笑う。

「そんな風に言わないでよ」

「それより、何故こんな時間に戻って来たのです?」

あ、いけない。平助くん待たせてたんだ。

「平助くんと出掛けるの。総司には悪いんだけど…甘いもの食べてくるね」

「…甘いもの?平助と?堂々と浮気ですか」

浮気って…。

「そんなんじゃないって分かってんでしょ。もうじき居なくなっちゃうから…だから…。それに言わなかったら怒るくせに」

桜夜は立ち上がり支度を始める。

「総司は寝ててよね。お土産はナイけど」

布団から起きようとする沖田をチラッと見て桜夜は言う。

「寝てなきゃいけないのにお土産は無しですか?」

沖田は苦笑いをして寝転がる。

「お金ないもん。いい?寝ててよ!じゃ、行ってきます」

桜夜は走って出ていった。

「ごめんね、遅かった?」

少し息を切らせて藤堂に駆け寄る。

「女は大変だな。行こうぜ」

二人は屯所を出た。

程なくして茶屋に着く。

「何がいい?」

「ん~、ぜんざいかなぁ」

「おやっさん、ぜんざい二つな」

藤堂が声を上げた。

何か切り出しにくいな…。

「珍しいな、桜夜ちゃんが誘うなんて」

「行くの…止められないの?」

焦ってる…私ってば唐突過ぎた…

「大丈夫だよ、桜夜ちゃんの事情は誰にも話さないから」

「そういう事じゃないの!」

桜夜は思わず声を荒げる。

「どうしたんだよ。友好的離脱だぜ。暮らす場所が変わるだけじゃんか」

全然友好的じゃないんだよ。このままじゃ平助くんは…死ぬ……。

「でも嫌だよ。平助くんが居てくれなきゃ…」

何て言ったらいいの?これじゃただのワガママだ。

「桜夜ちゃんにも自分が信じる道、あるだろ」

藤堂は俯いた桜夜の頭をクシャッとする。

「誰かに何か言われてそれを曲げられるか?」

俯いたまま桜夜は首を振った。