桜の下で ~幕末純愛~

桜夜は怒りながら沖田の前を歩く。

「桜夜。さ~よ。さ~よ~ちゃん」

沖田が声をかけるも桜夜は無視して歩き続ける。

ゴホッ、ゴホッ………

沖田の咳が聞こえた。

「総司っ!?」

桜夜が振り向くとクスリと笑う沖田の顔。

「もぉ~~、ほんっとに知らないっ」

桜夜は益々怒り、また歩きだす。

沖田が後ろからキュッと抱き締めた。

「ふざけ過ぎました。ごめん」

「そんな事したってダメだよ。…喀血したんでしょう?熱だって出しやすくなってるじゃない。土方さんに挨拶って、今までした事なかったでしょ」

死ぬ準備みたいのやめてよ。

「まだ大丈夫。今年の誕生日、約束したでしょう?」

「だったら隠さないでよ。ちゃんと教えて」

短い沈黙。

「少しだけです、喀血は。もう隠しませんから」

多いとか少ないとかの問題じゃないのに。

「機嫌は直りましたか?折角だから初詣に行きましょう」

この人は何を言っちゃってんの?

「バカ言わないでよ。総司は布団!私は仕事。分かった?」

「厳しいですね」

沖田が少しふてくされる。

「ふてくされたってダメ。早く部屋に戻って」

桜夜は沖田を部屋に押し込むと布団を敷き寝る様に促した。

沖田を寝かせると桜夜は再び仕事に向かう。

しかし喀血後の沖田が気になって身が入らない。

そんな桜夜の様子に気付いたナミが声をかける。

「お桜夜ちゃん、何かあったかい?」

「ナミさん…。いいえ、何でもないです」

ナミは困った様に笑う。

「お桜夜ちゃんが此処に預けられた時から見ているんだよ。嘘をついても無駄だよ」

ナミさん…。ホントお母さんみたい。

「さ、今日はもういいよ。休みをあげるから」

「ありがとうございます」

桜夜はナミに頭を下げると急いで沖田の元へ戻った。

部屋では沖田が眠っていた。

桜夜はそっと沖田のおでこに自分のおでこを付ける。

熱はなさそう。よかった。

慶応三年か…。きっと私が覚えてる事よりたくさんの事が起こるんだろうな…。

私が覚えてるのは御陵ナントカと油小路事件だけだし。

眠っている沖田を見て溜め息をつく。

総司だってきっともうじき隊務に着けなくなる。

私は総司を支えられる?

ううん、支える為に私が在るんだ。

桜夜はギュッと拳を握り締めた。