桜の下で ~幕末純愛~

言うと思ったよ…寒いって。

「煙いから換気して下さい。土方さんの体にもよくありませんよ」

桜夜は土方に御猪口を渡す。

「余計な気ぃ使うんじゃねぇよ」

土方がそれを受け取ると桜夜は酒を注ぐ。

「お前の酌は金が掛かるんだろ」

土方は意地悪く笑う。

それを見た桜夜もクスッと笑った。

「そうでしたね。じゃあ、お年玉でも貰おうかな」

そのまま桜夜の持って来た酒が終わるまで他愛のない話が続く。

「じゃ、来年こそは有料にしますね」

桜夜が立ち上がる。

「フッ、高そうだな。ああ、中々似合うじゃねぇか」

―櫛を外さねぇのは癪に障るがな―

簪?帰り際に言うなんて、ちょっと照れるな。

「ありがとうございます。仕事ばかりしてないで、たまには休憩して下さいね」

桜夜はそう言って襖を閉めずに出ていく。

「てめぇ、閉めてけっ」

土方の怒鳴り声を背に桜夜は小走りで台所に戻った。

一通りの仕事を終えると沖田の様子を見に部屋へ戻る。

しかし沖田の姿はなかった。

広間に行ったのかな?

桜夜が襖を閉めようとした時、畳にまだ拭き取られたばかりという感じの染みを見つける。

シミ?こんな所にあった?

桜夜は染みに顔を近付ける。

僅かに血の臭いがした。

血?喀血!?

桜夜は駆け出した。

屯所内を探し回るが沖田の姿はない。

バタバタと走り回っていると丁度土方の部屋の前に差し掛かる。

すると土方の部屋の襖が開く。

「新年早々バタバタと五月蝿ぇんだよ」

桜夜の足が止まる。

「何で…ここに居んの?」

土方の部屋には探していた沖田が居た。

「副長に新年の挨拶ですよ」

ニコニコしながら答える沖田。

今までそんな事しなかったじゃない。

「探してたの。話があるから」

桜夜の顔が険しくなる。

やれやれといった顔で立ち上がる沖田。

「痴話喧嘩なら部屋でしろよ」

土方がヒラヒラと手を振る。

「別れ話じゃないといいですけれどね」

沖田がふざけてそう言うと二人は土方の部屋を後にした。