桜の下で ~幕末純愛~

「まぁ、その気持ちも分かるんだけど…土方さんだって心配してるんだよ?」

桜夜は布団の端を持ち上げて沖田を覗き込む。

「分かりましたよ。…明日までに熱が下がらなかったら飲みます」

あくまでも今は飲まないんだね…。

「絶対だよ。約束だからね」

そして翌朝、沖田の熱はすっかり下がっていた。

すごい根性…石田散薬を餌に結核も治ればいいのに…。

「ほら、平気だと言ったじゃないですか」

「分かったよ…。でも今日はなるべく大人しくしててよ。あんま呑まないでよね」

沖田にそう言うと、桜夜は新年の宴会の準備に出ていった。

一通り支度を終え、一度部屋に戻る桜夜。

忘れてたよ…ひじぃからもらった簪。新年くらい付けないと悪いよね。

「どうしました?」

沖田はまだ部屋に居た。

「土方さんがくれた簪。今日くらいは付けなきゃ悪いと思って」

鏡台に向かい、簪を手に取る。

で?どうしたらいいんだろう…。

総司からの櫛は絶対外したくないし、それだと簪はどこに付ける?

簪を持ったまま固まる桜夜。

それに気付いた沖田がクスッと笑い、桜夜の手から簪を取ると頭に差した。

「ここなら両方でも可愛いですよ」

…スゴいな。

「ありがと。センスいいね。男のくせに…ちょっとへこむ」

沖田は桜夜のおでこを指で弾く。

「いたっ。何で?」

「ソレを差すのは今日だけですからね」

妬いてる?

「うん。じゃ、行ってくるね」

桜夜は再び仕事に戻った。

―櫛に簪…あそこまで鈍いと土方さんが可哀想になりますね―

沖田は溜め息をついた。

広間では宴会が始まっていた。

ひじぃ、居ないんだ…。また机に向かってんのかな?

桜夜は酒を用意すると土方の部屋に向かった。

「土方さん、居ますか?稲葉です」

少しの間があり返事がある。

「ああ。入れ」

襖を開けると机に向かっている土方が居た。

宴会も相変わらずだけど、こっちも相変わらず煙い。

「明けましておめでとうございます」

桜夜が頭を下げる。

「気味悪ぃな。何企んでやがる」

「失礼ですねっ!企んでなんかいませんよ。またどうせ根っこ生やしてると思ってお酒を持ってきたんです」

桜夜が土方の横に酒を置いた。

「おい、寒ぃじゃねぇか。閉めろよ」

開けっぱなしの襖を見て土方が文句を言う。