桜の下で ~幕末純愛~

夏も終わりかけた八月二十八日の夜。

三条大橋西詰の制札が引き抜かれ鴨川に捨てられる事件が起きた。

幕府の威信失墜の現れ。

九月二日に新しく立て直されたが五日の夜には再び引き抜かれる。

九月十日に再度立て直し、新撰組に制札の警備が命じられた。

制札が捨てられる事件…。全然知らなかった。

これで誰か命を落とす様な事はあったんだろうか…。

桜夜は桜の木に登り考えていた。

もう九月になってる。総司はいつまで隊務を続けていられるんだろう。

今だって時々辛そうに見えるのに…咳だって絶対我慢してる。

沖田は夜によく咳をする様になってきた。

それでも極力我慢している様だった。

まだ…まだ少しの時間はある。

桜夜は木から飛び降りて伸びをする。

しっかりしなきゃ!この先は…きっともっと辛い。

そして制札事件は九月十二日に決着を迎えた。

三条大橋を中心に三拠点を置き、それぞれに隊士を配置。

包囲体制を取れる様に準備を整えた。

三条会所に原田隊12名。

町屋に大石隊10名。

酒屋に新井隊12名。

そして土佐藩士8名が三条大橋西詰に出現、制札を引き抜く動きを見せた。

一報を受けた原田隊がいち早く現場へ到着。一方を塞ぐ。

そして逃走を始めた土佐藩士に遅れて駆けつけた新井隊がさらにもう一方の退路を塞いだ。

しかし大石隊への連絡が遅れ、結果予定していた包囲体制が整わず、土佐藩士の退路が出来た。

結局8名のうち、5名を取り逃がす事となった。

結果はどうあれ新撰組隊士が無事に戻り、桜夜は胸を撫で下ろした。

土佐の人には申し訳ないけど…。やっぱりここの人達が大切だから…。

九月、十月と瞬く間に過ぎ、再び桜夜の誕生日が訪れる。

早いなぁ~。私、何歳になった??

つーか激動過ぎて歳なんてどうでもいいや…。

もう女子高生気分は一ミリも残ってないよ…。

また新八さんが“ぱあちぃ”とか“ばあすでぇ”なんて言い出したりして。

去年は平助くんが悪酔いしたなぁ~。

あ…その後…総司と……。

今更って言われると…そうだけど…恥ずかしいっ。

床を磨きながら百面相をする桜夜。

「気味悪ぃぞ。掃除ひとつ普通にできねぇのかよ」

眉間に皺を寄せた土方が立っていた。