桜の下で ~幕末純愛~

沖田が発熱して三日目の朝、桜夜はいつの間にか眠ってしまった。

―まったく…本当に付きっきりなんですから―

桜夜を起こさない様に自分の布団に入れる。

沖田は片腕に桜夜の頭の重みを心地よく感じながら再び眠った。

翌朝になって桜夜が目を覚ます。

あ…れ…?

「総司?」

いつの間にか沖田の布団で眠っており、そこに沖田の姿がなかった。

ガバッと起き上がり、急いで沖田を探しに出る。

部屋を飛び出した所で誰かとぶつかりそうになり、抱き止められた。

「前を見ないと危ないでしょう?」

「総司!どこいってたのっ」

桜夜は思わず大声をあげる。

「厠くらいは行かせてくださいよ」

沖田はクスッと笑い部屋へ入った。

部屋で沖田は隊服に着替え始める。

「なっ、何してんの!」

「何って巡察ですよ。熱も下がりましたしね。土方さんには言ってきましたから」

…トイレじゃないじゃん。

時折咳をする沖田を心配そうに見つめる。

「心配していたって何も変わりませんよ。咳もまだ落ち着いています。大丈夫」

そう言うと沖田は出掛けて行った。

桜夜は急いで土方の部屋へ向かった。

「土方さんっ」

返事も待たずに襖を開ける。

「てめぇは…脳みそまで猿かっ」

「何で巡察に行かせたんですかっ」

桜夜はズカズカと部屋に入っていく。

「あいつが行くと言ったんだ」

チラリと桜夜を確認しただけで、振り向きもせず、顔色一つ変えずに答える土方。

「だからって…止めてくれたっていいじゃないですかっ」

「止めてあいつが聞くとは思えんがな」

………確かに。

勢いでひじぃのとこに来ちゃったけど…お門違いもいいとこだ…。

「……すみませんでした。失礼しました」

部屋を出ようとする桜夜。

「おい。てめぇが焦ってもどうしようもねぇだろうが」

背中に降りかかる声。

土方が桜夜の方を向く。

時勢が傾き始めたのはひじぃの方が痛いほど分かってるんだ…。

総司が長くない事も…。

桜夜は土方に向き直り頭を下げる。

「八つ当たりしました…。すみません」

「俺に八つ当たりか。ふんっ、随分なご身分だな。てめぇも早く仕事してこい」

土方は机に向き直り、桜夜は仕事に向かった。