桜夜が広間に戻ろうとすると丁度沖田が出てきた。

「桜夜、また臭いに酔ったのですか?」

「あ…うん。もう部屋に戻るの?だったら私もそうしようかな」

桜夜は沖田と一緒に部屋へ向かう。

―桜夜から土方さんの匂い?―

「桜夜、何処に行っていたのです?」

え?急に何?

沖田に後ろめたい事をしていた訳ではない。

しかし、土方の様子がおかしかった事を思うと思わず嘘をついてしまった。

「ん?風に当たってただけだよ?」

別にひじぃにお酌してただけだし、隠す事じゃないんだけど…。妙な心配はかけたくないし。

「そう…ですか」

―桜夜が嘘をついた?―

部屋に戻り暫くは沖田と話をしていたが、そろそろ宴会も終わる頃だろうと桜夜は部屋を出ようとする。

「さて、そろそろ皆寝込んじゃったかな?少し片してくるね」

桜夜が立ち上がると、突然沖田に腕を強く掴まれた。

「総司?い、痛いんだけど」

「何処に行くのですか?」

沖田の声が少しだけ怒っている様に感じた。

「片してくるって言ったじゃん。どうしたの?」

グイッと引き寄せられ、沖田の声が耳元で響く。

「桜夜から土方さんの匂いがします」

鋭い…。始めから普通に言えばよかったんだな…。

「ごめん。ちゃんと言えばよかったね。さっきたまたま会って、仕事してるって言うからお酒を持ってってあげたの」

拉致られたとは言えないケド…。

「少しお酌してただけ。それだけだよ。言うほどの事じゃないと思って…」

「それだけ、ですか?」

ちょっと違うけど…それだけなのは確かだよ。

「疑ってるの?」

沖田は桜夜の首筋に唇を落とす。

「桜夜が嘘をつくから」

チクリと首に微かな痛み。

「んっ……。少し嬉しいかも」

それって妬いてくれてるんでしょ?

「そんな事言うと、もう妬いてあげませんよ」

そのまま二人は肌を重ね合う。

桜夜は沖田の腕の中でこの上ない幸せを感じていた。

この先の過酷な現実から目を逸らすかの様に…。