桜の下で ~幕末純愛~

その夜、寄り添い眠る桜夜を見て沖田が溜め息をつく。

―おかしな事を考えるくせにいつも先に寝てしまって…―

眠っている桜夜のおでこを弾く。

「…ぅん……」

桜夜が一瞬ピクリと動いた。

―そろそろ我慢も限界なんですけどねぇ―

もう一度深い溜め息をついて沖田も眠った。

翌朝は桜夜が先に目を覚ます。

沖田が咳をしていないと安堵の息を吐く。

すると桜夜の頬に柔らかい感触。

「おはよう」

そう言って頬に口付けた沖田が笑う。

桜夜は赤くなって「おはよ」と答える。

―これだけで赤くなられては…―

慌てて布団から出た桜夜は身支度を整えた。

「行ってきます」

そう言うと走って仕事へ向かってしまった。

朝から心臓に悪いっ。あんな事、今までしなかったのに…。

考えながら小走りに進んで行くと、ドンッと誰かの背中にぶつかった。

「いたっ。すみませ…ひじぃ…っかたさん」

「朝っぱらからてめぇかよ」

…朝っぱらからひじぃかよっっ。

「すみませんでした。では」

早く逃げるに限るわ。

「おい、待て」

朝からお小言っすかぁ。

「夕べから新八が五月蝿ぇんだ、お前のばぁすでぇってな。異国語は止めろって言ってんのに聞きやしねぇ。…ほれ、やるよ」

土方はポンと何かを投げた。

桜夜は落とさない様に受け取る。

あ…これ。もう見付からないと思ってた。

「もう、落とすんじゃねぇぞ」

そう言うと土方は去っていく。

匂袋、土方さんが拾ってくれたんだ。

「ありがとうございます」

土方の背中にお礼を言った。

よかった。見付かった。思いがけないプレゼントだわ。

桜夜は匂袋をしまう。

…あれ?ひじぃ、やるよって…元々、私のだよね?

まぁ、拾ってくれたし、いっか。

夕方になると夕餉の支度と共に昨日永倉に言われたつまみの用意で桜夜は忙しかった。

新八さん…疲れて眠くなっちゃったよ。

桜夜はあくびを噛み潰した。