桜の下で ~幕末純愛~

桜夜が部屋に入ろうとすると中からコンと小さな咳が聞こえた。

総司?帰ってるの?咳…。

桜夜は勢いよく襖を開ける。

布団の脇に座っている沖田が目に入った。

「桜夜。何処に行ってたのですか?」

いつもと変わらない沖田。

桜夜は思わず沖田の胸に飛び込んだ。

勢いが良過ぎてそのまま沖田を押し倒してしまう。

「桜夜?」

沖田が目を丸くする。

「そんな風にされると襲いたくなりますよ」

クスッと笑い桜夜を抱き締めた。

あっ、私ってば…何してんだろう。

「ご、ごめん。重いね」

桜夜が沖田の腕から出ようとすると抱き締められた腕の力が強くなった。

「何があったのです?」

沖田が耳元で囁く。

「………怖いの」

つい口をついて出た言葉に桜夜はハッとする。

「怖い?」

本当の事言ったら、総司は別れるって言い出す?

「言ったら私を嫌いになっちゃうよ…」

「言わなければ分からないでしょう」

諭す様な沖田の口調に桜夜がポツリと言う。

「総司を失いたくない…」

沖田は少しだけ桜夜の体を上げるとその目を見つめ

「有難う」

と言って軽く口付けた。

「どうして?」

「桜夜も私と同じ様に想ってくれてるのでしょう」

沖田は優しく笑って言葉を続けた。

「体は楽になりました。しかし労咳が治った訳ではないでしょう?私も怖いんです。桜夜を置いて先に死ぬのが…。剣に生きて剣に死んでいくのに恐怖を感じた事などありませんでした。桜夜だけですよ、私をこんな気持ちにさせるのは」

桜夜は初めて聞いた沖田の本音に涙が溢れそうになる。

ダメだ。泣きそう。

グッと堪える顔の桜夜に沖田がクスッと笑う。

「泣き虫さん、泣いてもいいですよ」

桜夜は首を横に振った。

「それは悲しい涙ですか?それとも嬉しい涙?」

沖田が聞く。

悲しい涙?嬉しい涙?

総司が同じ様に想ってくれてるのが分かった…嬉しいんだ…。

「…嬉しい」

震える声で答える。

「なら泣いてもいいでしょう?」

沖田の一言に堪えていたものが一気に溢れだした。

桜夜の涙が止まるまで沖田はその髪を撫でていた。