桜の下で ~幕末純愛~

その夜、土方は桜の木に向かった。

―いねぇな。今夜は総司が巡察で出てるし、あの顔をしてる時は大抵登ってる筈だったが―

「土方さん?」

後ろから声がかかる。

「こんなとこでどうしたんですか?」

「夜風に当たりにきただけだ」

―心配なんだよ―

「へぇ。珍しいですね」

桜夜は木の下に座った。

「登らねぇのか」

「登ってるとこ、スゴイ格好なんですよ。誰にも見せられませんよ」

桜夜は苦笑いをした。

「で、何があった」

「何で土方さんには分かるんですかね…」

桜夜が溜め息をつく。

「顔に出てんだよ。総司が見たって気付いてるだろうよ」

分かりやすいって事ね…。

「歴史を変えてしまったんじゃないかと思って…」

「総司か?」

「はい」

土方が桜夜の隣に座った。

「お前が何かしたのか?」

あ、そっか。鎮痛剤の事は言ってなかったんだ。

「熱が高かったから、鎮痛剤を飲ませました。鎮痛剤で労咳が治るとは思えません。でも、こっちの物じゃないし…。思い当たるのはその位しかないんです」

フッと土方が笑った。

笑い事じゃないんですけどぉ~。

「石田散薬もお前の薬にゃ負けっぱなしだな」

桜夜も思わず笑いだした。

「あれは苦すぎですよ」

無理矢理飲まされた事を思い出す。

「総司に死んでほしい訳じゃない…。死んでほしくなんかありません。けど、労咳って言ったら、もう…待つだけでしょう?歴史上では…」

「総司は長くはもたねぇんだろ」

そうだけど、ひじぃに言われると余計にキツイ…。

「歴史は変えちゃいけない。分かってます。今までだって言わずにきました。でも総司を失いたくない」

流れそうになる涙をグッと押し込める。

―その顔をされちまうのは辛ぇな―

「泣いていいぞ。総司も見ちゃいねぇ」

ひじぃ…。何で?

「…泣きませんってば」

桜夜は上を向いて再び流れそうになる涙を止める。

「泣かないけど、弱音吐いてもいいですか?」

返事の代わりに土方はそこを動かず桜夜の言葉を待った。