桜の下で ~幕末純愛~

沖田が喀血し、目を覚ましたのを境に沖田の咳がほぼ止まった。

たまに咳き込む事もあるが、以前と比べれば格段に違っていた。

沖田は巡察に出る支度をしながら聞く。

「私が倒れている間に、何かしましたか?」

桜夜はブンブン頭を振る。

「咳が完全に止まった訳ではないので、治ってはいないでしょうけれど…」

私がした事?鎮痛剤?!

まさか。あれ、市販の鎮痛剤だもん。ありえない。

「ん~、多分…。分かんないや」

鎮痛剤なんてテキトーな事言えないし、あれで改善されるとも思えない…。

「そうですよね。ま、考えても仕方ありません。私としては好都合ですし。では、行きますね」

「ん。気を付けてね」

「あぁ、今日は夜も出ますから」

「え?何で?」

桜夜が首をかしげる。

「新八さんが寝込んでましてね。二番組を連れての巡察です」

「風邪?」

沖田はクスッと笑う。

「腹痛らしいですよ」

新八さん…食べ過ぎだよ…。

沖田は巡察へ、桜夜は仕事へそれぞれ向かった。

桜夜は雑巾片手に柱を拭きながら考える。

もし、もしもよ?鎮痛剤で咳が抑えられたとしたら?

総司の寿命が延びたって事?

寿命…死ぬのを待ってるみたいでヤだな。

私はそりゃ嬉しい。できれば咳だって全くしなくなれば…治ればこの先の別れなんて考えないですむもん。

けど…それで歴史が変わったら?

もしかしたらもう変えちゃってるかもしれない…。

総司が隊務につけなくなったのはいつ頃からだった?…ダメだ…覚えてない。

歴史の本がほしいっ。

「おめぇは柱を削る気か」

その声にハッと我に返る。

ひじぃ…。毎回タイミングよく現れるもんだね。

「何だ。不満があるなら言ってみろ」

不満かぁ…。

「労咳」

コツンと小さな拳骨が桜夜の頭に落ちる。

「不満がねぇなら、んな顔して同じとこばっか磨いてんじゃねぇよ」

「言ったじゃん。今、不満言いましたよね、私」

「他の柱も削るんじゃねぇぞ」

土方はコツンと再び桜夜の頭に小さく拳骨を落として消えていった。

―あいつはまた余計な事を考えてやがるな―