桜の下で ~幕末純愛~

「桜夜。私もこうしていたいのですが、日が暮れる前には戻らないと土方さんが心配していますよ」

ちっ、またひじぃか…。

小屋から少し離れた所に馬がいた。

「馬?」

沖田はサッと跨がると桜夜に手を伸ばす。

「こんな山奥、歩いては間に合いませんよ」

桜夜の腕を掴むと軽々と沖田の前に乗せた。

「ね、ねぇ。ちょっと怖い…」

「初めてでしたか?しっかり掴まっていて下さいね」

沖田が一蹴りすると馬が歩き出す。

「わわっ」

沖田は慌てる桜夜を見て楽しそうに笑うと急に駆け足をさせる。

「うぎゃっ。ムリ、ムリ、ムリ!」

桜夜が叫んでしがみつく。

「色気のない声で…。仕方ないですね」

沖田は並足に戻し、ゆっくりと進んでいく。

心地良い風が桜夜の髪を揺らす。

のんびりと馬に揺られていたので屯所に着いた時には日が傾きかけていた。

「すっかり遅くなってしまいましたね」

「土方さん、こ~んな顔して怒ってるかな」

桜夜が眉間に皺を寄せて土方の真似をする。

「似てねぇぞ」

腕組みをして眉間に皺を寄せた土方が立っていた。

「すみません」

つーか、真似したのと同じ顔じゃん。

「馬で行った癖に遅ぇんだよ」

「怖かったんだもん…」

桜夜は小さな声で呟いた。

「あ゛?猿みてぇに木に登るくせに怖ぇだと?」

「木と馬はぜんっぜん違いますっ」

思わず言い返す桜夜。

「何処が違ぇんだよ。木の方が断然高ぇじゃねぇか」

「木は動きませーんっ。見たら分かるじゃないですかっ」

桜夜と土方の喧嘩が始まった。

―楽しそうですね。馬鹿みたいで混ざりたくはないですけど―

沖田は嬉しそうに笑ってそれを見ていた。

その夜。

桜夜と沖田は久々に寄り添って眠った。

「桜夜。起きてます?」

「ん…なに?」

沖田の胸に顔を埋めてくぐもった桜夜の声。

「本当に私と居ていいのですか?また今日の様に狙われるかもしれませんよ」

桜夜は顔を上げると沖田の額を指で弾く。

「どんな事があっても守るって言ったのは誰?」

ほとんど眠っていた様な顔の桜夜に思わず沖田が笑い出す。

「私でしたね…おやすみ」

沖田もそのまま眠りについた。