桜の下で ~幕末純愛~

綾はそれでもクスクスと笑う。

「気が強いのはいい事だわ。その眼が恐怖と悲しみに変わっていく様は見ていて気持ちがいいもの」

…変態。

「さて、そろそろ遣いを出さないと。起きるのを待ってたの。楽しみでしょう?血相代えて飛び込んでくるのよ。時間はたっぷりあるわ。ゆっくり悲しみに浸って、その顔が変わっていく様を楽しませて頂戴」

こいつベラベラ喋りすぎ。うざっ。

…総司は来ないんだけどなぁ。

誰か来てくれんのかな?

…誰も来なかったら?うわっ、さむっ。最悪じゃん。

「遣いを出す必要はありませんよ」

その時、戸口からある筈のない声がする。

「わざわざこんな処に桜夜を運んでくれたんです。これ以上の手間はかけられませんから」

そ…うじ…?

戸口には喀血して倒れた筈の沖田が立っていた。

その場に居た全員が驚き、くつろいでいた浪士達は刀に手をかける。

「さて、引き取りにあがりましたよ。帰る時間です」

「そう言われて帰す筈がないのは解ってるでしょう」

綾が楽しそうに笑っている。

「“この私”が穏便に済ませてあげようとしているのに?」

沖田は顔色一つ変えずに言った。

綾はクツクツ笑うと

「いい事を思い付いたわ」

と、桜夜に歩み寄る。

縛られたままの桜夜を起こし上げ脇差をその首に当てると沖田の前に立たせた。

「この子がいると満足に戦えないでしょう?斬らせてあげるわ」

なっ、なんつった?斬らせてあげる?

総司が私を斬るの?

沖田はククッと笑う。

「それはそれはお気遣いをどうも」

綾の脇差が桜夜の首に食い込む。

うっすらと血が滲み出した。

「どうしたの?私に首を斬られるよりはいいんじゃないかしら?クスッ やっぱり無理みたい?じゃあ二人ともさようならね」

沖田は小さく溜め息を吐くとポツリと呟いた。

「穏便にと言ったのに…仕方ないですね」

そして桜夜を見ると

「桜夜、目を閉じて下さい」

そう言うと刀に手を掛けた。