桜の下で ~幕末純愛~

“やはり誘い出す方がいい”

“ああ。奴を消せば相当な痛手の筈だ”

“決行は今夜。あの女子は綾に…”

屯所の外れで会話する男が二人。

明美と共にきた隊士だった。

―こいつら、ほんまに阿呆や―

その二人をつけてきた山崎。

―外れとはいえ屯所内でする話じゃあらへん―


二人は屯所を出ていく。

―“綾”っちゅうのが気になるが、まずは拠点を見つけな―

山崎も二人を追った。

桜夜は意識の戻らない沖田についていた。

「お水、替えてくるね。すぐ戻るから」

眠ったままの沖田に話しかけ、井戸へ向かう。

新しい水を汲み、戻ろうとしたところに明美が現れた。

「探していたのよ。お願いがあるの。一緒に来てくれないかしら」

えっ、無理だよ。

「ごめんなさい。今日は無理です」

桜夜ははっきりとした口調で断る。

「何故?あら?桶なんてどうしたの?誰か病?」

食い下がってこないでよ~。

「いえ。そういう訳じゃないですけど…」

総司の事なんて言えない。

「ねぇ、お願いよ。頼れる人が他にいないの」

ここで断ったら部屋まで着いて来そうだよ…。

「分かりました。少しだけ待っててもらえますか」

総司はひじぃに頼むしかないか…。

桜夜は渋々了承し、沖田の事を頼みに土方の元へ向かった。

「土方さん、居ますか?稲葉です」

「ああ」

襖を開けると相変わらずの煙たさ。

「何かあったのか」

「煙いですよ。少しだけ総司をお願いしたいんです」

桜夜は顔の前で手をパタパタさせて言う。

「おめぇは一言余計なんだよ。何処か行くのか?」

「明美さんに頼まれ事されました」

土方は眉間に皺をよせる。

「んなもん断ればいいじゃねぇか」

「私だってはっきり言いましたよ、無理ですって。今の総司を置いてくなんて嫌ですっ。でも、引いてくれないんですもん。断り続けたら部屋まで来そうなんですよ?それは困るじゃないですかっ」

土方は溜め息をつく。

「俺に当たるんじゃねぇよ。早く戻れよ」

土方は桜夜から桶を受け取ると沖田の部屋へ向かう。

桜夜も渋々明美のところへ戻った。