桜の下で ~幕末純愛~

この時間なら部屋に居るはず。

桜夜は土方の部屋に着くなり襖を勢いよく開く。

「ひじぃっっっ」

いきなり桜夜が現れ、更に訳の分からない呼び方に驚く土方。

「てめぇはなぁっ…なっ、何だその血は」

桜夜の着物に着いた血に気付き驚愕する。

「そっ、総司がっ。助けてっ」

ただ事ではない様子に土方も急いで立ち上がる。

「行くぞ」

桜夜と土方は沖田の部屋へ走り出す。

土方が部屋に飛び込むと、青白い顔で紅い血に横たわる沖田の姿が目に写る。

後から駆け込んだ桜夜が呼吸を整えながら説明する。

「さっき酷く咳き込んで…血を吐いて…く、苦しそうに倒れて…私じゃ布団まで連れていけなくて」

土方は沖田を抱え布団に寝かせた。

「熱が出てるみてぇだな」

「お水、持ってきます。少しだけ居てもらってもいいですか?」

桜夜は部屋を出た。

結核…あんなに苦しそうに…。

目の当たりにしたら狼狽えるしか出来なかった…情けない。

しっかりしなきゃ!これが自分で決めた道。

落ち着きを取り戻した桜夜は桶に水を汲み、沖田の元へ戻った。

血で汚れた沖田の顔や手を丁寧に拭き取る。

新しい手拭いを水に浸し、沖田のおでこに乗せた。

「泣くかと思っていたがな」

黙って見ていた土方が呟く。

桜夜は首を横に振った。

「泣きませんよ。総司はそれを望まないから。…でも、私一人じゃ総司を運ぶ事も出来なかった…情けないです」

土方はポンと桜夜の頭に手を置く。

「強くなったな」

桜夜は再び首を横に振った。

「朝から呼びつけてすみませんでした。もう平気です」

「何かあったら直ぐに呼べ」

土方は部屋を出ていった。

桜夜は手拭いを替えながら青白い顔を見つめる。

時々、沖田が苦しそうに顔を歪めた。

熱が高い?どうしたら…あ、鎮痛剤…。

結核の人に市販の鎮痛剤を使っていいの?分かんない。

…でも、今考え付くのはそれしかない。

桜夜は風呂敷からバックを取り出すとピルケースを開ける。

あと三錠しかない…。意識のない総司にどう飲ませる?

桜夜は口の中で出来るだけ細かく砕き、水を含むと沖田の口へ流し込む。

ゴクリと沖田の喉を通った音がした。