桜の下で ~幕末純愛~

それから数日経った日。

沖田は夜の巡察に出ていた。

桜夜は新しくなった屯所の木に登っていた。

「おい、猿」

ひじぃ…猿じゃないっつーの。

「人間ですが?」

木の上から土方を睨む。

「見下ろしてんじゃねぇよ。俺にそんな事が出来んのは総司とお前位ぇだ」

「私の邪魔をするのは総司と土方さん位ですよっ」

桜夜は木から飛び降り、土方の横に並ぶ。

「総司の具合はどうだ」

「朝晩の咳が酷くなりました。寝付きが悪いみたいです…」

「少しは隊務を減らしてぇんだがな」

桜夜は首を振った。

「望まないでしょう?」

「そうだな…」

桜夜は雲に隠れそうな月を見上げながら呟いた。

「本音を言えば…未来に戻る方法があるなら、総司を連れて帰りたいんです」

「治せるのか?」

桜夜は少しだけ頷く。

「未来では死病じゃないですよ。子供の頃に予防接種…かかりにくくする為の薬もあるんです」

「そうか」

「ま、無理ですけどね。頭では分かってますけど…困っちゃいますね、そう簡単にはいきません」

桜夜は深呼吸を一つして笑う。

「戻ります。そろそろ総司も帰ってくるでしょうから。おやすみなさい」

土方に小さくお辞儀する。

「あぁ、総司を頼む」

お互いに部屋へ戻って行った。

翌朝

身支度を整えていると沖田が急に咳き込みだした。

「ゴホ、ゴホッ…うっ…ゴフッ」

「総司?!」

慌てて駆け寄る桜夜。

激しい咳が止まらず、沖田が崩れ落ちる。

「総司っ!しっかりしてっ」

桜夜は必死に背中を擦る。

「ゴホッ、ゴホッ……ガハッッ」

沖田の口から大量の血が溢れだす。

「総司っっ。いやっ」

崩れ落ちて悶える沖田を抱き締める。

永遠かと思える程の時間。

沖田は咳が治まると気を失った。

総司…ま、まずは布団に寝かせなきゃ。

しかし桜夜の力では沖田を布団に運ぶ事が出来なかった。

誰か助けて…あっ、ひじぃなら…。

桜夜は沖田に掛け布団だけ掛けると土方の元へ駆け出した。