翌日、沖田は山南を連れて屯所に戻ってきた。

皆、落胆の色を隠せない。

局中法度―幹部と云えど例外は許されない。

とうとうその日だ…。明日になれば山南さんは居ない…。

介錯は総司…。

どうして総司なの?ただでさえ体が悲鳴をあげてるのに…心まで…。

きっと何ともなかったって顔して戻ってくるんだ。

その夜は桜夜も沖田も笑い合う気にはなれず早いうちに床につく。

しかし、桜夜はほとんど眠れなかった。

沖田も眠れなかったのであろう、静かな部屋には咳の音だけが響いていた。

翌朝の沖田は心労と寝不足でいつもより咳が酷い様に感じる。

「大丈夫?今日は咳が…」

「ゴホ、ゴホッ 平気ですよ。これ 今日は体がどうのと言っている ゴホッ 時ではないので」

沖田は背中を擦る桜夜の手をそっと外すと大きく息を吸い込んだ。

「刀の手入れをします。今日は見ていて気持ちいいものではないですから、桜夜は出てて下さい」

不思議と咳一つせず、凛とした顔をしていた。

桜夜は「はい」とだけ言うと直ぐに部屋から出た。

切腹の介錯は重要って聞いた事があるな…。

それによって苦しみが違うって。

逃れられないなら…せめて…。

桜夜の足は山南の元へ向かっていた。

会えるかな?

…会えたとしても私はどうしたいの?かける言葉なんてない…。

その手前で足が止まった。

暫く立ち尽くしていると山南の元から女の人が出て来る。

あ…もしかして明里さん?

山南からよく聞いていた。聡明な女性だと。

誰かが気を利かせてこっそり連れてきたのであろう、隠れる様にして去ろうとしていた。

すると明里が桜夜に気付き、近付いてきた。

「お桜夜ちゃん?」

泣き腫らした声。

「はい」

「沖田はんに伝えてな?あの人を宜しくと」

それだけ言うと逃げるようにして行ってしまった。

桜夜は何も出来ない自分に苛立ちを覚えた。

桜夜は山南に会うのは諦めた。

お門違いと分かっていても、山南の顔を見たら、逃げなかった事や総司を介錯に選んだ事を責めてしまいそうだったからだ。

その時は目前に迫っていた。