桜の下で ~幕末純愛~

翌朝、通いの女中達が来ないうちに布団を藤堂の部屋に運び込む。

音を立てない様に襖を開け、端に布団を置く。

「もう、起きたのか?」

「平助くん…ごめんね、起こしちゃったね」

なるべく音、立てない様にしたのに。

「いいよ。俺等は気配に敏感でなきゃいけないからね」

…本当に休まる時はないの?

「そっか。…あ、この事は秘密にしておいてくれる?」

「分かってるよ」

「ありがとう。ごめんね」

桜夜はそのまま台所へ戻る。

真冬の台所って寒いな…。

私、これからどうするんだろう。

…総司の傍に居たいって…最期まで居たいと思ってここで生きてく決心したのに。

“後悔しないようにやってみたらいい”

ふいに土方の言葉を思い出す。

このままで後悔しない?

横で笑っててくれないからって逃げ出して後悔しないの?

私の決心はその程度?

ううん。そんな事ない。

総司が帰ってくる場所はココなんだから。

私はココに居る。

桜夜が色情婦と噂が流れた事で伊東の執拗な勧誘はなくなった。

沖田の部屋を出て二週間、もうじき二月になるという頃。

桜夜はいつもの様にこっそり藤堂の部屋に布団を取りに行く。

「平助くん、居る?」

「おぅ」

いつもの藤堂の声。

「ごめんね、いつも」

そう言いながら襖を開けると、そこに土方が居た。

「ひっ、ひじかっ…」

桜夜は思わず後退りをする。

「座れ」

怖い…。顔がカンペキ怒ってる。

つーか平助くんっ。言わないって言ったのに。

思わず藤堂を睨む。

「悪かったよ。でも、もう見てらんない。一体何処で寝てんだよ」

「………」

平助くん…気持ちはありがたいんだけど…。

はぁ、ひじぃにバレた…。何て言われんだろう。

「稲葉」

「…はい」

「話せ」

ムリっす!しかもチョー睨んでるし。

「嫌ですっ。失礼します」

逃げる様にして藤堂の部屋を後にした。

やっちゃった…。後でぜーったい殺されるっ。

あ…布団ないじゃん。今夜は眠れないや。

総司の咳…夜は眠れてるのかな…。

桜夜は台所の小窓から月を見上げる。

その頃、沖田も月を見ながら想っていた。

―桜夜…逢いたい―