桜の下で ~幕末純愛~

桜夜さん?今“さん”って言った?

「それ…本気で言ってんの?」

「ええ」

沖田は布団に入ったまま、桜夜を見もせずに答える。

「出てけって…空き部屋もないのに?」

桜夜の声が震え出す。

「色情婦なのでしょう?ゴホッ 土方さん辺りでいいのではないですか?」

あぁ…終わった。

「すぐに出ます。近藤さんには言わなくていいよ。部屋は適当に探すから」

桜夜は溢れそうになる涙をグッと堪え、沖田から遠くに敷かれた布団を畳むとそれを持って静かに部屋を出ていった。

―桜夜、ごめん…―

沖田の肩が小さく震えた。

布団を抱えて桜夜は困っていた。

勢いで出てきちゃったけど…寝るとこなんてないじゃん。

………台所の畳なら寝られるんじゃない?

桜夜は台所へ向かった。

あ、朝はどうしよう。布団を置いとく訳にはいかないし…総司の部屋にはもう入れない。

考えながら歩いていると、ドンッと誰かにぶつかった。

「いたたっ。すっ、すみません」

「ごめん、って桜夜ちゃん?」

ぶつかった相手は藤堂だった。

「平助くん…。ごめんね、大丈夫だった?」

「いや、平気だけどさ。何?それ」

藤堂が布団を差す。

「布団だけど…」

あっ、平助くんなら置かせてくれるかも。

「平助くん。お願いがあるの。事情は聞かないでほしいんだけど…明日から朝、荷物と布団を部屋に置かせてもらえない?」

藤堂は目を丸くする。

「なっ、何言ってんだよ。総司は?」

そこを聞かないでほしいのに…。

「ちょっと…ね。お願いしますっ。端に置かせてもらうだけでいいの」

「総司のところを出たのか?何でだよ」

だから聞かないでって言ってんじゃん。

「………色情婦だからだよ」

「―なっ」

藤堂はそれ以上聞かず、布団と荷物を置かせてくれると言ってくれた。

「ありがとう。ごめんね」

そう言うと桜夜は台所へ向かう。

真っ暗な台所は異常に寒く感じた。

泣かないっ。絶対に!

その晩から桜夜は誰にも知られない様に台所で寝起きを始めた。