桜の下で ~幕末純愛~

思いがけず近藤が怒鳴った事で土方の説教は免れたものの、桜夜はひと月の謹慎を言い渡された。

買い出しすら出させてもらえず、休みの日に甘味処に連れて行ってももらえない。

「つまーんなぁーい」

桜の木の上で文句を言う。

「自業自得だろ」

ひじぃ…。そうですけどね…。

「分かってます、よっ」

桜夜は木から飛び降りる。

「おめぇは猿か」

「人間です」

「「………」」

妙な空気が流れる。

「稲葉、お前は総司の何を知ってるんだ」

土方の言いたい事は分かっていた。

「…最期までですよ」

「あそこで何がある筈だった」

歴史上は喀血…。そんな事、軽く言える訳ないじゃない。

「ピアスの事、ちゃんと言ったじゃないですか。それだけです」

桜夜は強い眼差しで雲一つない青空を見上げる。

「私、決めたんです。総司の最期まで一緒に居るって。こんな時代だからそれが今日か明日か…10年後か50年後か…。分からないですけど、総司の傍に居たい」

ホントは10年どころか5年すらない。

「それを総司が受け入れてくれなくても…」

「お前はそれでいいのか?」

「いいも悪いも…もう決めたんです。土方さんには感謝してます」

あの時、ひじぃが泣かせてくれたから。

「お前に感謝されてるとは思わなかったな」

土方が少し意地悪そうに笑う。

「まぁ、多少は成長したんじゃねぇのか」

―なかなかいい目をする様になったな―

「えーっ、多少ですか?」

「まだまだ餓鬼だろ。ま、後悔しないようにやってみたらいい」

土方は桜夜の頭をクシャっとする。

「総司に捨てられたら拾ってやるよ」

そう言うと部屋に戻っていく。

拾ってって…動物じゃないし。ホントに猿と間違ってんじゃない?

…ひじぃ、ありがと。

桜夜は遠くなった後ろ姿に頭を下げた。