桜の下で ~幕末純愛~

沖田は少しだけ笑うと

「ありがとう」

と言った。

「どうして?」

「経緯はどうあれ、桜夜に助けられました」

そして桜夜の耳を隠している髪をかき上げると、石がなくなり無惨になったピアスに触れる。

「桜夜に知らせてくれたんですね」

「…ピアス、ダメになっちゃったね」

せっかく総司が買ってくれたのに。

「もう一つ、あるでしょう?戻ったらまた付ければいいですよ」

…戻ったら?やっぱり私は未来へ戻るの?

総司と一緒に生きたいって、最期まで一緒に居たいって言ったらダメ?

「そ…だね」

桜夜は俯いてピアスを外した。

「財布にしまっとく…」

風呂敷の鞄の中から財布を出し、小銭入れにピアスを落とした。

桜夜の後ろ姿を悲しい目で見る沖田。

―私と居る事で危険な目に遭うのなら…早く戻さなければ…―

―桜夜の居ない暮らし…堪えられるのでしょうか―

風呂敷を結び、向き直った桜夜に言う。

「近藤さんが酷く心配してましたよ。土方さんもね。報告に行きましょう」

う゛…。近藤さんはまだしもひじぃ…怖い…。

そんな桜夜の表情に沖田はククッと笑う。

「土方さんの説教がどれだけ続くか見物です。今夜、眠る時間があればいいですね。あ、私は先に休みますからね」

ひじぃのお説教…。逃げたいっ。

近藤の部屋に入ると沖田は土方を呼びに再度出る。

桜夜は近藤の前に座った。

「大馬鹿者っ!」

思ってもみなかった近藤の怒鳴り声。

その声の大きさに驚き、沖田が戻ってくる程だった。

「どれだけ心配したと思っているんだ!少しは弁えなさいっ!」

項垂れる桜夜。

「…すみませんでした」

近藤は一度小さく溜め息をつくと、桜夜の肩に手を置いた。

「大きな声を出してすまなかったね。しかし本当に心配したんだよ。我々はそんなに信用ならないかい?」

桜夜は俯いたまま首を振る。

「なら、もう二度とこんな事はしないと約束してくれるかい?」

「はい…本当にすみませんでした」

「俺の出番がなくなっちまったみてぇだな」

いつの間にか来ていた土方が言う。

「心配してもらえるだけ有り難ぇと思え」

「…はい」

近藤の愛情に桜夜は少し泣きたくなった。