桜の下で ~幕末純愛~

走り込んだ桜夜が目にした物―沖田の顔が苦しげに歪み、吉田が刀を振り上げている瞬間だった。

「総司っ!!」

桜夜は二人の間に飛び込み、沖田を背にするとその前に屈み、両手を広げた。

刀を振り下ろそうとした吉田の手がピタリと止まる。

「……桜夜?」

え?

低かった視線を上にする。

「栄…太郎?何で…」

広げていた両手がストンと落ちる。

桜夜の出現により吉田の動きが止まったのを沖田は見逃さなかった。

ありったけの力を振り絞り、呆然としている桜夜の体を引き寄せる。

そして左手で桜夜両目を塞ぐと右手の刀で吉田の腹を一気に引き裂いた。

吉田はその場に倒れ、息絶えた。

沖田も力を使い果たし、そこで気を失った。

桜夜は自分に凭れかかる様に倒れた沖田をギュッと抱き締め、その口元を確認する。

血を吐いた?

…血、付いてない。よかった。

じゃあ、ここで発症する説じゃないって事?

沖田が無事と分かり、ホッとした桜夜はふと冷静になる。

横には息絶えた吉田が居た。

え、栄太郎…死んで…る?

「あ…あ…あ…いやぁぁぁぁ~っ」

桜夜は沖田を抱えたまま取り乱す。

そこに桜夜を追い掛けていた原田が現れた。

取り乱した桜夜とその腕にいる沖田。

「総司!桜夜ちゃん!」

原田は慌てて二人に駆け寄った。

「桜夜ちゃん、落ち着け!俺だよ。桜夜ちゃん!」

原田は少し強めに桜夜の頬を叩く。

「左之…さん?」

「あぁ、何があったんだ?総司は?」

桜夜は腕に抱いた総司を見る。

「多分、気を失ってるだけ…分かんない。私が来た時には総司が膝を…栄太郎が…いやぁぁぁぁっ」

再び混乱してきた桜夜を見た原田は

「桜夜ちゃん、ごめん」

そう言って桜夜の鳩尾を殴り気絶させた。

そして長い戦いが終わった。

新撰組隊士1人死亡、手負い3名。

浪士7名死亡、23名捕獲。

六月六日、正午過ぎに新撰組は【誠】の旗を先頭に隊列を整え屯所へ帰還した。

こうして池田屋事件は終息を迎えた。