桜の下で ~幕末純愛~

屯所で待つ桜夜は、ただ待ち続けていた。

その時―

パンッ

左耳で何かが弾け、痛みが走る。

痛っ。何?

桜夜は耳に手を当てると沖田からもらったピアスの石が弾け飛んで、微かに耳たぶが切れている。

こんな小さな石が割れるなんて…。

総司!?

その瞬間、桜夜は池田屋に向かって走り出していた。

その頃、池田屋内では沖田と吉田が激しい戦いを繰り広げていた。

力は互角か…沖田の方が僅に勝っている様に思えた。

しかし形勢は逆転し始める。

息が切れ始め、激しい目眩と吐き気が沖田を襲う。

あまりの酷さに沖田はとうとう膝をついてしまった。

「ふぅ~ん。沖田総司って強いって聞いてたけど?名だけだったんだね。じゃあ、そろそろ御仕舞いにしようか。」

吉田がニヤリと笑い、刀を持ち直す。

一方、土方隊が池田屋に到着。

ほぼ同時に会津藩が到着した。

ここで会津藩に入られては手柄は全て持っていかれる。

土方は隊士11名を池田屋内に突入させ、残りの隊士で出入り口を固める。

そして土方は

「池田屋は我等新撰組にて御用改めの最中。一切の手出しは無用」

そう言うと会津藩の前に立ちはだかった。

ふと土方は会津藩の中に埋もれる小さな頭を見つける。

それが桜夜だと認識するのに時間はかからなかった。

「稲葉!?」

桜夜は会津藩の群れを掻き分け、土方の前で一呼吸すると池田屋内に走り出そうとする。

「待てっ。てめぇは何しに来た」

腕を掴み、桜夜を止めた。

「放してっ!総司が!」

桜夜は土方の手を振り払うとそのまま池田屋に飛び込んだ。

土方は入口付近に原田を見付け叫ぶ。

「左之っ、稲葉を護れ!」

「え?桜夜ちゃん?」

そう言う原田の横を桜夜が走り抜けていった。

原田も浪士を払いながら桜夜を追いかける。

確か総司は二階。

階段を見つけると一気に駆け上がる。

ただ夢中で沖田の元を目指す桜夜にはこの惨状は目に入らなかった。

二階に上がると一際大きく開けられた襖が目に入る。

あそこだ!

桜夜は迷わずそこに走り込んだ。