「それ片付けとくから、着替えてこい。

飯食いに出るぞ。」




ユキは昨日の夜も何も食べていない。



『外食‥キライだもん。』



子供のように口を尖らせるユキ。



「そんな顔してもだめ。行くぞ。」



それに加えて
さらに目を細め


『えー。』


と反抗的に、ソファに戻っていった。





部屋の中をキョロキョロと、

何かを探すユキに


煙草を差し出す。




『あ、じゃあさ、浩介がご飯作ってくれれば問題ないじゃん!』




ニコッと満面の笑みで見上げられると

危うく、
じゃあそうするか、と言いそうになったが


そういえば、俺は包丁を握ったことさえない。




「目玉焼きしか作れねぇんだけど。」



と笑うと、

ケラケラと、ユキも笑っていた。





『あれだー?いつも女が作ってくれるんだー?さすが、モテますねぇー。』




と、ユキがからかうもんだから。




「まぁなー、俺くらいにもなるとなー、隆志くんと違ってー。」




‥しまった。



言った後で
自分の、言葉に驚いた。



気がゆるんでいた。

隆志くんの名前を出すなんて。


冗談にするにはまだ、早すぎる。






笑顔を崩さずに笑うユキは



『だーれー?タカシって、友達ー?』



と、煙草に火をつけた。




どうにか話しを変えようと

頭の中で模索する俺を余所に





『なーにー?シェフとか?』




「‥‥‥‥‥。」





‥‥いや、違う。




これは、冗談でも

皮肉でもない。




何より、ユキは

こんなふうに

冗談にして笑えるような性格ではない。






‥‥本気だ。






そう思った。




思ったと同時に



心臓が一度、


激しく脈打って



頭からサーッと、血の気が引くような感覚がした。