【実話】アタシの値段~a period~







聞こえなかったのか、


その振りをしていたのか


ユキは俺の質問に答えることはなく



不意に砂浜に
ぽつりと転がる小枝を拾い上げると


それを波打ち際にそっとさした。




『ねぇ、見て。』



しゃがみ込んで俺を見上げる。




寄せては返す
波に揺られた月明かりが


ユキの力ない微笑みを半分だけ照らしていた。





『これがアタシだとするじゃない?』



言われるままに

指を差された小枝に視線をうつす。




「これの枝がお前?」




そう、とユキが呟いた瞬間‥


小枝はまたたく間に波にのまれてしまった。




『こんな不安定な場所じゃ
すぐ流されちゃうんだよ。』



「‥‥‥‥。」




『どんなに深く突き刺しても
今度は大丈夫、って思っても

何度だって、さらわれちゃうの。

過去とか 未来とかに。』





「‥‥‥‥。」




『一度ね、流されちゃったらさ、
もがいても もがいても

元の場所には‥もう戻れないんだよ。』




そして




『あとは、沈むだけ。』



と、付け加えた。







キセキのようなこの星空の下で



「‥お前と、この枝は同じじゃないだろ。」





どうしようもなく
空っぽな目をして




『報われない、って意味では同じでしょ?』







なんて言いながら眼を伏せたユキの


これ以上にない弱りきった


小さな頭を、胸に押しつけ抱きしめた。






次第に震え始めた小さな肩。




俺の肩には、ジワリと涙の温度が伝わった。





らしくもない、

必死に明るく振る舞っていたのだと、

初めて気づいた。






ユキが、何をどこまで知ったのかは

わからなかったけど


もう、無理に聞き出すのはやめにしようと思った。




全てを忘れて、違う街で


また出直せばいい。






触れてはイケナイ、そんな

自分との誓いなんて

完全に頭からとんでいた。










ユキから腕の力は返って来なかったけれど



それでも、


力いっぱい抱きしめていた。