―バタンッ
「はっ!?」
助手席に乗り込んできたフランス人形。
訳が分からず動揺する俺に
『出して!!』
と。
「や、意味わかんねぇ…」
と独り言のように喋りながら
俺は言われるがまま、ギアをバックに入れた。
「待てよ!!」
すぐに追い付いてきた茶髪の男が
ガチャガチャと
助手席のドアを開けようとしているが
いつの間にだろう、
鍵がかけられていて開かない。
「マヤ!!」
今度は窓をドンドンと叩き出した男に
不快感を込めた、ため息を一つ溢した彼女は
15センチほどだけ窓を開け
『だから、元々この人と待ち合わせしてたって言ってんじゃん!』
そう言った後、窓を閉めながら
『消えて。』
と、冷たく言い放った。
その時の俺の顔といえば
ポカーン。
これしかシックリとこないほど
それはそれは間抜けだったことだろう。
そして男は
肩を落としたまま、土砂降りの中を歩いて行った。
「…え~っと…大丈夫?」
なんて声をかければ良いのかが分からずに。
『え?あ、うん。ごめんね突然。タカシさん、だっけ?』
…覚えていた。
びしょ濡れの前髪を整えながら棒読む彼女の言葉に
俺は、心で舞い上がった。
けれど彼女の気だる気な横顔は
昨日とは少し違った雰囲気を漂わせている。

