その時、
「ユキちゃん!」
後ろから呼ばれた名前に振り替えると
少し背の高い
スウェット姿の男がいた。
『‥斉藤隆志?』
ついフルネームで呼んでしまったアタシに
「久し振りだね。」
と笑った斉藤隆志は
以外と年上に見えた。
風に吹かれてパラッと崩れた黒い髪が
睫毛にかかり、ウザそうに眉をしかめた彼は
綺麗な目が印象的だった。
こんなに整った顔してたかな、と
記憶の糸を手繰ったけど
思い出すのは、クラブのチカチカした照明と、
あの日、おごってもらった甘いカクテルの味だけだった。
そう言えば
歳も聞いてない。
いや、聞いたけど
忘れてしまっただけかもしれない。

