「家出したって……家の人、心配してないのか?」
珈琲のカップをテーブルに置く。
『子供の心配しない親なんて、腐るほど居るよ。』
…あぁ、またそんな風に
冷めた目をするのか…
「…バイトとかは?」
『は?』
「バイトとかしてねぇの?」
『本気で言ってんの?』
ユキはスズっと珈琲を一口すすり
鼻で笑った。
「どういう意味?」
あたりまえに返す質問に、今まで目を合わせなかった彼女が
真ん丸な目で俺を見ている。
『………バイトはしてないよ。』
5秒ほどの間を置いて、ユキが答えた。
珈琲を飲終えても、まだ寒い、と言ったユキは
俺が沸かした風呂に入った。
こんな季節に
何時間も外にいたんだ。
身体が芯まで冷えていたのだろう。
さっき食べ損ねたケーキを後で一緒に食べようね、と
彼女は笑いながら風呂場へ向かった。
どんな心境の変化なのか、ただ単に気分屋なのか、
それとも大好きな珈琲がそうさせたのか、
さっきまでとは
まるで別人のようだった。

