爽吾君の家から出て、私はとにかく走った。

パンプスを履いている足が痛んでも今自分がどこにいるのかがわからなくなっても、とにかく走り続けた。

見え隠れするアイツをどうにかして消し去りたかったから。


だけどそれくらいでアイツが消し去れるわけもなくて、力尽きた私は道路の隅にうずくまってしまう。

酸欠状態で走ったからか、また目の前が白く染まっていく。

そうなると余計にアイツのことを思い出してしまった。


恐怖感。
嫌悪感。
絶望感。

この世にある負の感情を、私に教えるだけ教えて消えていったアイツ。

もう、解放されたはずなのに。

最近は思い出すことも減っていたのに。

一度開いてしまった記憶のトビラは、私の意思と関係なく大きく開いていく。