腕を叩くその手には力が入っていないのか、弱々しい音しか響かない。

一成はその証拠に手を離すわけでもなく、平然としていた。


だけど……
このままでは一成が犯罪者になってしまう。

私は一成を止めてほしくて、虎のTシャツから手を離した。

少しふらついたけれど、一人で立てないほどではない。

虎は私の気持ちを正確に読み取ってくれて、振り返ることなく一成に駆け寄っていく。

そして虎の手が一成の肩に触れる寸前。


「俺が怖いか?
だけどな、あいつはもっと怖かったんだ」


一成が突然、男にそんなことを言い始めた。

伸ばされていた虎の手は、いつの間にか引っ込められていた。

ただ一成の背中を見つめている。

男は一成の話を聞こうともせず、まだ腕をペチペチと叩いていた。