「こんな事されても何も言わないんだな」

男を睨みつけることしか出来なかった私。

そして男は私が言い返さないとわかっていたように、口元だけを歪めていた。

漆黒の瞳に、嫌悪感以上の侮蔑という感情を表しながら。


「俺もう帰るわ。じゃあな」

もう用はない、といった感じで私から視線を外し、爽吾君に軽く手を挙げる。

だけど爽吾君も聖羅も。

もちろん、私も。

そんなものに反応なんて出来なくて、ただ突っ立っているだけの人形のようだった。


そんな私達を気にもせず、ポケットから出したお金をテーブルに置いた男は。

私を押し退けて、さっさと部屋から出ていってしまった。