私は頭から水を掛けられたんだ。

爽吾君の声はそれを咎めるもので、小さな痛みは氷が頭に当たったから。

髪や頬、首筋や背中を濡らすものはこのグラスに入っていた水。

そして……私に水を掛けたのは、この男。


確かに。この男の言っていたことは正論だ。

嫌なら嫌だと言えばいいのだし、そう態度で示せばいい。

それが出来ない私を見て、この男がイラつく理由もなんとなくわかる。

だけど……水を掛けられるほど、この男に迷惑をかけた覚えはない。


頭に血が昇り、目の前の男を睨みつける。

私より三〇センチほど高い位置に頭がある男は、そんな私を相変わらず顔を歪めて見下ろして……いや、見下していた。

怒りに任せた負の感情を言葉にするべく、その全てが喉元まで沸き上がってくる。

それなのに……私はそれらを言葉にすることが出来なかった。