「絶対に無理」
言えるわけがない。
高橋を困らせる事はあってもお礼を言うなんて事は絶対に無理。
まぁ、退院許可をくれるなら言っても良いけど。
雑誌を見たままのあたしにお母さんはまたため息を吐く。
大体早くココから退院させてくれない高橋達が悪いんだし。
抜け出しても夜にはきちんとココに帰ってくることをむしろ褒めて欲しいくらい。
最近はあたしが病院に帰ろうとする前に誰かさんが迎えに来るんだけど。
「―――お、岡本さんいらしてましたか」
お母さんとの会話が終わってまた雑誌を読み始めた時。
優しい声が聞こえて、お母さんとあたしは声がした方を向く。
穏やかな顔で入ってきた清水先生……と高橋。
今日も先生の後ろにくっついてるし。
高橋と目が合ったけど、あたしはおもいっきり睨んですぐに清水先生の方へと視線を逸らした。
「いつもお世話になってます、清水先生、高橋先生」
お母さんが頭を下げると、高橋も頭を下げた。
あたしは起き上がって読んでいた雑誌を閉じる。
「心ちゃん、具合はどうかな?」
「元気です。……早く退院したいんですけど」
毎日同じ質問に同じ答えをしてる。
清水先生はそう、といつも通りニッコリ笑って口を開く。



