「行ってきます…」

誰もいない家に向かって呟く。

返事は、もちろんない。


改めて、姉が行方不明なんだと実感した。





教室に着くと、愛津が笑顔で迎えてくれた。

いつもと変わらない笑顔で…。

「おはよー栄来!」

「おはよう…」

彼女、
七戸 愛津[シチノヘ マナツ]は高校に入ってできた親友。

お兄さんは、姉と同じ19歳でとっても物知り。
というか、なぜか情報が多い。

普通の人なら知らないような細かい情報まで手に入れてしまう凄い人。

…どこで収集してるか知らないけど。

その前に、会ったこともない。


「なんか、元気ないね??どーしたの??」

さすがの愛津兄も、お姉ちゃんの事件はまだ知らないか…。

「ん、ちょっと…」

まだ、自分で口にできなかった。



「そいつの姉貴、行方不明になったんだよ」


私は耳を疑った。

聞こえるか聞こえないかのギリギリのボリュームで、空耳かと思った。

でも、私は確かに聞いた。


まだ、誰も知らないはずなのに。

世間にも、ニュースとして流れてなんていない。
新聞の記事にも載ってなかった。


声のしたほうを見ると、クラスメートの男子が一人で席についていた。

名前はたしか、
上田 翔磨[ウエダ ショウマ]とか言ったっけ。

本を片手に体はそのまま、首だけこっちを向いていた。


彼が持っている本の表紙には、『犯罪』と書いてあった。


こいつが普通の奴じゃないのは、誰が見ても一発だった。