「さ、乗らないと」



翔は立ち尽くす私の手をひいて、バスに押し込んだ。

無情な機械音。


ドアが閉まる。


ドアの外には、笑顔で手を振る翔。


ゆっくりとバスが動きだし、翔が左へ流れて消えてゆく。



もう顔も分からないくらい離れても、いつまでもいつまでも翔はそこにいた。






「好きよ……」




ぼやける景色の中に、もう見えないはずの翔の笑顔が浮かび、その場にしゃがみこむ。




周りの心配する声など、少しも聞こえないまま、もう見えるはずのないバス停のほうを見ていた。