その時初めて呂布は張飛の影に隠れたベアトリクスに気づいた。
「貴様ら、戦場に女を連れてきているのか!?」
怒気を含んだ呂布の一喝すら、劉備三兄弟の想いを止めることはできなかった。直後に呂布に返ってきたのは、男たち三人がハモった、
「女なんか見ないでーッ!」
という悲痛な叫びだった。
「呂ーちゃん、りょーちゃんはそんな人だったの!?筋肉ごつごつの俺たちより、こんな小娘が気になるの!?」
「そうだよ、こんな、ヒゲもはやせない、お尻のくぼみも作れない女野郎なんかに!」
「女なんてアレだよ、あのほら、あれの、おいら、アレ?」
「あんた等、ホモだからって女性差別するんじゃないよ!私だって頑張ってんじゃん!腹筋だって10回できるようになったし!」
呂布は
(クッ!こいつらに関わるのは、分が悪そうだ!)
と本能的に悟ると、名馬・赤兎馬の踵を返して自軍に向かって走り出した。
「待ってー、俺たちをおいていかないでー!」
劉備たちが慌てて呂布を追いかける。
(誰が待つか!ヘンタイどもめ!)
呂布は男たちの熱い想いを背中に感じ、心をヒヤリとさせた。
「おおっ、呂布を敗走させたぞ!ものども、今が好機だ!全軍、進めー!」
劉備一派が呂布を追い払うのを見て、袁紹が高らかに号令した。
戦いがいよいよ大掛かりになっていくのをよそに、劉備三兄弟は
「ああん、逃げられちゃったぁ」
と悔し涙を流すのだった。