朝、米森ベアトリクスは、「このままでは学校に遅刻してしまう」という危機感に気持ちを焦らせていた。
「ちぃッ・・・!官能小説に熱中し夜更かしした結果がこれとはッ!年頃の乙女は大変なのダ!」
ベアトリクスは若さを武器に、頭にまとわりつく眠気を振り払うように、大きく腕を振って走った。
見慣れた交差点を左に曲がり、いよいよ目的の学校まであと500m程になった地点で、彼女の前に、道をふさぐ大きな水溜りが立ちふさがった。
「ゲーッ!・・・こうなったら、伝説の、あの技を!」
ベアトリクスはカバンの中からおやつに準備していた饅頭を取り出し、水溜りの真ん中に投げ入れた。それを飛び石に、向こうへ渡ろうという作戦だ。
「勝利へ!」
掛け声と同時にジャンプしたベアトリクスの右足が、饅頭の上に降りる。瞬間、饅頭とベアトリクスの右足はズボッと水溜りに飲み込まれた。そのまま、少女の右足は水底を捉えることはなかった。彼女は体ごと水溜りに飲み込まれた。
「あーれー!」
波に水面を騒がせた水溜りは、しばらくすると静けさを取り戻し、もとの空を映す青い鏡にもどったのだった。