足元の緑の草原を踏み付け、赤毛の青年は青々とした空を見上げ丘のうえに立っていた。
風で垂れてくる前髪を煩わしそうに手櫛でかきあげた。片手で煙草の葉を丸めたタバコをくわえ、モクモクと煙を吐き出した。
180強の長身にスラリと伸びた手足が細身の体に綺麗に栄える。さらに、肩までかかった赤毛がまた絵になる。
青年の髪をかきあげる手が止まった。漆黒の瞳は一つの点を捕らえた。
自然と口角あがってきた…。
「にぃ〜にぃ?」
背後で甘えたような甘い声が青年の背中を叩いた。
青年は、肩眉をピクリとあげゆっくりと振り返った。
「イヴ…か。どした?」
青年の目先には、赤毛を二つに結んで左右に短いポニーテールを垂らした少女が小首を傾げて立っていた。年にして12歳。140ないくらいの身長で小柄で華奢な体つきをしていて、つり目が愛らしく見えてくる。
「どした〜、はぁ・こっちが聞きたいにぃ〜。」
ますますイヴは体を傾けて困惑した表情を向けた。
「ま・いいにゃ。皆がぁ『アダム様はどこだ〜』って探しとるンよぉ。それで探しにきたンに。」
いい忘れたが、イヴはあまりに幼い頃から様々な言語を話す人々に接してきたため、言葉の言い回し、訛りがごちゃ混ぜになってしまっている。
「にぃ〜にぃ…。嬉しい?」
イヴがいつの間にか青年アダムの懐に入り込みじっと見上げていたので、アダムは目を点にしてイヴを見下ろした。
「『嬉しい』?…って、何で?」
煙をもろに吸ったので、イヴはアダムから離れ丘を下りはじめた。
「べっつに〜♪ただ・にぃ〜にぃ、笑ってたからぁ〜♪早く戻ってきてにゃ。皆心配してるきにぃ。」
イヴの背中を見送りながらアダムは目をパチパチさせた。
イヴは、父がまだ生きてた頃拾ってきた戦争孤児だ。直血ではない…が何故だかちょっとしたことで俺の感情を読み取れる…本当の兄弟みたいに。

手で顔を覆うと、アダムは突然吹き出した。笑いを堪えて喉の奥で笑った。

…嬉しい?俺が…?

覆い隠した手から口角がゆっくりとあがっていく様子が見て取れた。
「そうかもな。」
バッと勢い良く手を外すと、大股に丘を下っていった。