草原一面を覆うように、霧がおりていた。
朝もやが近隣の空気を冷やし回っていた。
ロイは、自室の扉を開けると、外界の空気に体を震わせた。
喉の奥がひんやりとした。
吐く息が白くなっているのを確認すると、再び自室に入った。
そして、防寒用のコートを纏いマフラーを首にまくと、足早に納屋に向かった。

納屋に辿り着くと、騎馬兵が馬の手入れをしていた。
馬の蹄の裏に付いたワラをとり、ブラシをかけている。
早い者は、鞍をつけている。
ロイが納屋に足を踏み込むと、ひとりの兵が気付き挨拶をした。
その兵に続き、他の兵の大きい声がコダマするように響いた。
あまりの声の大きさに、馬達は耳を伏せた。
「あんま、デカイ声だすなよ。馬がビビんだろ?」
そう言うと、準備をしてる兵と馬一人一人に話し掛けながら、奥に向かって歩きだした。
最深部に辿り着くと、鼻白の黒鹿毛の馬が荒々しい鼻息で紐に繋がれていた。
一人の兵が、蹴られないように恐る恐るブラシをかけていた。
「フェリシア!!」
ロイが声をかけると、黒鹿毛の馬は首をあげ、ピンと耳をたてた。
ロイの姿を確認すると、低く鼻をならした。
「おい、鼻を鳴らしても何もでねぇぞ?」
そう言って馬の顔を撫でた。