メドゥーサは一口噛り、それをコクリと飲み込んだ。
『ちゃんと願い事した?』
イヴがメドゥーサの顔を覗き込む。
『あぁ…。ちゃんと心の中で唱えたよ。
…それにしても、ホントに叶うのかね?』
半ば疑いながら、メドゥーサは知恵の実を食べ続けた。

すると、いつの間にか辺りが真っ暗になっていた。
メドゥーサは、食べる手を休めると、怪しげな天候に眉をひそめた。
『なんなんだい?急に天気が崩れてきた…。イヴ、急いで帰ろう。』
メドゥーサは立ち上がり、家に帰ろうと動きだした。
しかし、イヴが後からついてこない。
メドゥーサは、振り返り小首を傾げた。
『どうしたんだい?』
赤子を抱えたイヴは、じっと俯いたまま立っていた。
『…ゴメンね…。メドゥーサ…。アタシ…、嘘、ついちゃった。』
イヴがゆっくりと顔をあげた。
その表情は、どこか冷たく、微かに頬笑むその顔は、どこか不気味だった。
『“知恵の実”はね、食べた人の願いを叶えるんじゃないんだぁ…。』
メドゥーサは、全身に悪寒が走るのを感じた。
『“知恵の実”はね、食べた人を不老不死にする力があるんだよぉ。』
メドゥーサの顔から血の気が引いた。
自分の目の前に立って、怪しげな笑みで笑うイヴの姿が信じられないでいた。
『でもね…。その代わりに、大事なものを神様に捧げないといけなぃんだよぉ…。』

突然、イヴの背後で凄まじい轟音をたてて、雷が落ちた。
メドゥーサは思わず目を閉じた。
そして、恐る恐る目を開くと、嘲笑しているイヴを見つめた。
『何を…するんだい?』
恐怖とショックで声が震える。
イヴはそんなメドゥーサを鼻であしらい、泣き叫ぶ赤子を天に掲げた。
メドゥーサの目が見開く。
『…返して…。アタシの…坊やを…。お願い…』

あちこちで、雷が轟音を鳴らしながら落ちている。
その閃光に照らされ、イヴの不穏な笑みがいっそう不気味に映し出された。
『さぁ、神よ!!約束だよ!!貴方にこの子を与えよう!!』
イヴの叫び声に反応するかのように、地面が揺れはじめた。
そして、雷雲が一つ所に集まりはじめた。
何かを形づくるかのように、天で蠢きはじめた。
そして、それは、巨大な人の形を為した…。